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2024.08.26
お知らせ
2024.09.08
ブログ
皆様、こんにちは。超大型台風で、そのうえスピードが遅く、進路予想が極めて難しいということで、いくつもの建築現場を抱えている工務店としては大変心配しながら、台風情報とにらめっこの毎日でしたが、ここ松江・出雲地域においては、そんなに大きな災害に見舞われることなくホッとしました。特に超ノロノロ移動ということが災いして、全国的にあちこちで大きな災害に見舞われた方々には、心よりお悔やみとお見舞いを申し上げます。
ところで今回は、前回お約束の内容を変更して、先日人気番組の「プロジェクトX」で、数年前に甦った奈良の「薬師寺東塔」をやっていましたが、『心柱』の共通話もありますし、「薬師寺」のお話しをしたいと思います。
(写真)薬師寺 東塔
放送は国宝の「東塔」でしたが、実は20年くらい前でしょうか、私は、「薬師寺西塔」の再建工事が終わってしばらくしてから、実際に再建工事に携わった工事責任者の方の細かな説明や、たくさんの苦労話を、現地でいろいろと聴かせていただいて深く感動した経験がありましたので、「東塔」の放送は本当に興味深く見せていただきました。
「薬師寺」は、戦国時代にことごとく焼け落ちて、唯一残っていたのが国宝の「東塔」で、創建当時のまま(1,300年)現存している大変貴重な仏塔です。これまでにも部分的な修理はされていたようですが、この度は史上初の「全面解体修理」ということで、12年の歳月と28億円という巨額の費用をかけて、3年半前に完成した一大事業です。
西塔も直接見上げると、何とも美しく力強く、前回お話しした「東寺五重塔」とはまた別次元の感動を覚えたものですが、この「東塔」は同じ「薬師寺三重塔」でも、よく比べてみると、屋根の形(勾配)、全体の色(朱と白壁)、壁の設え(連子窓)、屋根構造の組み方、等々、全然違うことに気づきました。また、細かなところでは「隅(すみ)伸(の)び」といって端(隅)の柱だけを少しだけ長くして梁のラインを弓なりにして美しく見せる工夫や、「内(うち)転(ころ)び」と言ってすべての柱の上部をわずかに内側に傾けて安定感を出したり、と、宮大工さんの飽くなき美の追求などもあちこちで気遣いされていて、私なりに一言で表現すれば、「華やかで優美な西塔」に対して、「落ち着いた貫禄の東塔」といった雰囲気でしょうか。皆さんも写真を見て、自分なりにきちんと見つめてみて、違いを表現してみてください。
(写真)薬師寺 西塔
そして、外からは視えませんが、どちらも、前回お話しした「仏塔共通の心柱」が中央にしっかりと立っています。1,300年もの長い間、地震にも風雪にも耐えて現存していることに驚かされます。(西塔は一度戦火で焼失しています) テレビでは、東塔の心柱の最下端部分中心部の1,300年の虫食いや腐れ等ですっぽりと空いた空洞を、現代に生きる巨木を見事な匠の技術でつなぎ合わせて、命の継承を見事に伝えていました。感動でした。拍手喝采でした。1万3,000点もの部材をすべて解体して組み直したようですので、この心柱以外にも、多くの宮大工さん方の智慧と鍛錬の技術で、数多くの見事な甦り(命の継承)がなされたものと思うと、言葉にならないほどの深い感動を覚えます。この価値ある仏塔が、これからまた数百年の歴史を生き繋いでいくと思うとなんと素晴らしいことでしょう。心から携わられた関係者の皆様方に感謝と拍手を送りたいと思います。
ところでもう一つ、皆さんは、私が冒頭に、この薬師寺の仏塔が「三重塔」と言いましたが、屋根が6段あるのになぜ三重塔ですか?と思いませんか? よく見ると、交互に掛かる3段部分は少し短くて、下の少し出っ張った部分の庇のように見えます。実はこれは「裳階(もこし)」というもので、上の屋根の骨組みの重厚な組み方と比べると、すごく簡素・シンプルです。各階の柱は貫いており、内部の階層は三層しかないので「三重塔」とわかるのです。これがなかなかお洒落な外観に見えるから面白いですね。すばらしい美の感性です。私の大好きなあの日本最古の木造建築「法隆寺」の金堂や五重塔の一層目にもこの「裳階」がついているのは何とも興味深いところであります。
私は、建築を志した学生の頃より、なぜか「法隆寺」と「薬師寺」は他の古建築とは別格の美しさや優美さを感じていて、何度も見学していますが、この度の「プロジェクトX」を見て、その答えが少し見えてきたみたいで、益々何か別格の興味が湧いてきて、また必ずやこの目でもう一度確認(納得)したいという欲求に駆られています。「本物の美」「本物の価値」とはこういうものでしょうか・・・? それでは今回はこのくらいで失礼します。